「ささいなこと」  『食の好みが一致しない人間とは、一緒に 暮らしていけないだろう』  彼女と食事をしていたら、いつの間にかそ んな話題になっていた。 「ささいなことだと思うかもしれないけど、 絶対に重要なことだよ」  味噌汁をすすりながら、彼女は力説する。 「衣食住、っていうだろう。人生を送る上で の根幹部分だよ。その部分の嗜好が合わない のでは、日常生活にも支障をきたすに違いな い。特に私が譲れないのは、味噌汁ご飯だな。 ご飯に味噌汁をかけてねこまんまと称する奴 がいるが、あれは非合理的で正視にたえない。 お茶碗に汁が付いてしまうのは美しくない。 味噌汁の方にご飯を入れるべきだ」  彼女はその信念の通り、ご飯をぶちこんだ 味噌汁を実に美味そうに飲んでいる。  でも僕は、せっかくの高級料亭でのデート でそんなことをする女とは、二度と一緒に食 事をしたくないと思った。